執筆者:菠菜菠菜
2025年12月11日、米国証券保管信託会社(DTCC)はSECから「ノーアクションレター」(No-Action Letter)を取得し、ブロックチェーン上で保管している証券資産のトークン化を認められた。
この発表により、業界は歓喜し、注目の的となった。99兆ドル規模の保管資産がついにオンチェーン化され、米国株のトークン化の扉が開かれた。
しかし、この文書を詳細に読むと、重要なポイントが見えてくる。DTCCがトークン化しているのは「証券権利」(security entitlements)であり、株式そのものではない。
この違いは法律用語の細かい表現のように聞こえるかもしれないが、実は証券トークン化の二つの異なる道筋と、それに関わる二つの勢力の間で進行している博弈を示している。
一、米国株の真の所有者は誰か?
この博弈を理解するには、まず逆説的な事実を把握する必要がある。米国の公開市場において、投資家は実際に株式を「所有」したことは一度もない。
1973年以前は、株式取引は実物証書の流通に依存していた。取引完了後、売買双方は実物の株券に署名・裏書を行い、それを郵送して名義書換を行うという手順だった。この流れは取引量が少ない時代には問題なく機能していた。
しかし、1960年代末には、米国株の平均日次取引量が300万株から1,000万株を超えるまで急増し、システムは崩壊の危機に瀕した。証券会社のバックオフィスには何百万もの株券証書が滞留し、紛失・盗難・偽造が相次いだ。ウォール街はこの時期を「ペーパークライシス」(紙の危機)と呼んだ。
この危機に対処するために誕生したのがDTC(Depository Trust Company)である。彼らの基本的なアイデアはシンプルだ。すべての株券を一箇所に集中保管し、取引時には実物を動かさず、帳簿上のデジタル記録だけで済ませるというものだ。
これを実現するために、DTCはCede & Co.という名の名義預かり機関を設立し、ほぼすべての上場企業の株式をCede & Co.名義に一元登録した。
1998年の公式公開データによると、Cede & Co.は米国の発行済み公開株の83%の法定所有権を保有している。
これは何を意味するのか?あなたが証券会社の口座で「アップル株100株を保有」と見ているとき、その株主名簿にはCede & Co.の名が記されている。
あなたが持っているのは、「証券権利」と呼ばれる契約上の請求権だ。あなたは証券会社に対してこの100株から生じる経済的利益を主張できる権利を持ち、証券会社は清算業者に対して請求し、清算業者はDTCCに対して請求できる。これは階層的な権利の連鎖であり、直接的な所有権ではない。
この「間接保有システム」(indirect holding system)は50年以上にわたり運用されてきた。紙の危機を解消し、毎日数兆ドルの取引清算を支えてきたが、その代償として投資家と保有証券の間に永遠に中間の仲介層が存在している。
二、DTCCの選択:インフラのアップグレードと構造の維持
この背景を理解すれば、今回のトークン化の範囲は明確になる。
SECの免責レターとDTCCの公開声明によると、彼らのトークン化サービスの対象は、「DTCにおいて保有されている証券権利を持つ参加者(Participants)」である。参加者とは、直接DTCCと連携する清算証券会社や銀行を指し、現時点で米国には数百の機関だけがこの資格を持つ。
一般投資家が直接DTCCのトークン化サービスを利用することはできない。
トークン化された「証券権利トークン」は、DTCCが承認したブロックチェーン上で流通するが、これらのトークンが表すのはあくまで底層資産に対する契約上の請求権であり、直接的な所有権ではない。底層の株式は依然としてCede & Co.名義のままである。
これはインフラのアップグレードであり、構造の全面的な再構築ではない。目的は既存システムの効率性を向上させることであり、置き換えることではない。DTCCは申請書類の中で、いくつかの潜在的なメリットを明示している。
第一に、担保資産の流動性向上:従来の仕組みでは、証券の移動には決済サイクルを待つ必要があり、資金はロックされる。トークン化により、参加者間でほぼリアルタイムの権利移転が可能となり、凍結された資本を解放できる。
第二に、照合の簡素化:現行システムでは、DTCC、清算証券会社、小売証券会社がそれぞれ独立した帳簿を管理し、毎日大量の照合作業を行っている。ブロックチェーン上の記録は、これらを共有する「唯一の事実源」となり得る。
第三に、将来のイノベーションの土台:DTCCは、将来的に権利トークンに決済価値を持たせたり、ステーブルコインを用いた配当支払いを可能にしたりする可能性に言及している。ただし、これらには追加の規制許可が必要となる。
重要なのは、DTCCがこれらのトークンがDeFiエコシステムに入ることはなく、既存の参加者を迂回しないこと、発行者の株主名簿も変更しないと明言している点だ。
言い換えれば、誰も覆すつもりはなく、この選択には合理性がある。
多国間ネット・決済(multilateral netting)は、現行の証券清算システムの核心的な優位性だ。毎日数兆ドルの取引総額は、NSCCのネット差引きにより、最終的には数百億ドルの移動だけで決済が完了する。この効率性は集中型のアーキテクチャ下でのみ実現できる。
DTCCは、システム重要な金融インフラとして、安定性の維持を最優先とし、イノベーションを追求しない。
三、直接保有派:トークンから株式そのものへ
DTCCの慎重なアップグレードと並行して、もう一つの道もすでに芽吹いている。
2025年9月3日、Galaxy DigitalはSEC登録の株式を主流のパブリックブロックチェーン上でトークン化した最初のナスダック上場企業として発表した。Superstateと提携し、GalaxyのAクラス普通株は、Solanaブロックチェーン上でトークンとして保有・移転できる。
重要な違いは、これらのトークンが実際の株式を表している点だ。株式の請求権ではなく、所有権そのものである。SuperstateはSEC登録の移転代理人(transfer agent)として、トークンの移転時に発行者の株主名簿をリアルタイムで更新する。
トークン保有者の名前は、直接Galaxyの株主名簿に記載される——Cede & Co.はこのチェーンには存在しない。
これが真の意味での「直接保有」だ。投資家は契約上の請求権ではなく、財産権を得る。
2025年12月、Securitizeは2026年第1四半期に「完全オンチェーンのコンプライアンス取引」を実現するトークン化株式サービスを開始すると発表した。市場に多く見られる派生商品やSPVを用いた合成トークン化株式とは異なり、Securitizeは「本物の、規制された株式:オンチェーンで発行され、発行者の株主名簿に直接記録される」と強調している。
Securitizeのモデルはさらに一歩進んでいる。オンチェーン保有だけでなく、オンチェーン取引もサポートする。
米国株の取引時間中は、全国最良価格(NBBO)に連動し、休市中は自動マーケットメイカー(AMM)がオンチェーンの需給動向に基づき価格を決定する。これにより、理論上は24時間365日の取引が可能となる。
この道は、ブロックチェーンを証券インフラのネイティブ層とみなす別のビジョンを示している。既存システムの付加層ではなく、基盤そのものとして。
四、二つの道、二つの未来を示す
これは技術的な競争ではなく、制度的な二つの論理の対決だ。
DTCCの道は漸進的な改良を志向している。現行システムの合理性——多国間ネット・決済の効率性、中央対抗リスクの緩和、規制の成熟——を認めつつ、ブロックチェーン技術を用いてより高速・透明な運用を目指す。
中間業者の役割は消えず、ただ記帳方法が変わるだけだ。
一方、直接保有の道は構造的な変革を志向している。間接保有システムの必要性そのものを疑問視し、ブロックチェーンが不変の所有権記録を提供できるなら、なぜ層状の仲介を維持する必要があるのか?投資家が自ら資産を管理できるなら、なぜ所有権をCede & Co.に譲渡するのか?
両者にはそれぞれの選択肢と妥協点がある。
(翻訳:Chuk Okpalugo)
直接保有は、自己管理、ピアツーピアの送金、DeFiとの連携といった自主性をもたらす一方、流動性の分散やネット差引きの効率喪失といった代償も伴う。すべての取引をオンチェーンで全額決済し、中央清算機関の差引きがない場合、資本の占有率は大きく上昇する。
また、直接保有は投資家自身に運用リスクを負わせることになる。秘密鍵の紛失やウォレットの盗難など、従来は中介が保証していたリスクが、今や個人の責任となる。
間接保有はシステムの効率性を維持する。集中清算の規模の経済、成熟した規制・コンプライアンス体制、機関投資家に馴染みの運用モデルだ。ただし、その代償は、投資家が権利行使を常に中介を通じて行う必要があることだ。株主提案や投票、直接の発行者とのコミュニケーションは、理論上は株主の権利だが、実務上は多層の中介を経由しなければならない。
注目すべきは、SECが両方の道に対しても開かれた姿勢を示している点だ。
12月11日にDTCCの免責レターに関して出された声明の中で、Hester Peirce委員は明言した。「DTCの証券権利のトークン化モデルは、この旅路の中で有望な一歩だが、他の市場参加者は異なる実験的な道を模索している……すでに一部の発行者は自らの証券をトークン化し始めており、投資家が仲介を介さずに直接証券を保有・取引しやすくなる可能性がある。」
規制当局のメッセージは明快だ。これは「どちらか一方を選ぶ」ものではなく、市場により適したモデルを決めさせるためのものだ。
五、金融仲介の防衛戦略
この道の対立に直面したとき、既存の金融仲介はどう対応すべきか?
第一に、清算証券会社と保管機関にとっての課題は次の通りだ。
DTCCモデルの下で、あなたは不可欠か、それとも代替可能か?もし権利のトークン化が参加者間で直接移転できるなら、従来の托管料、移転料、照合作業の存在意義は何か?DTCCのトークン化サービスをいち早く採用した機関は差別化できるが、長期的にはこのサービス自体が標準化・商品化される可能性もある。
第二に、小売証券会社の課題はより複雑だ。
DTCCモデルでは、彼らの役割は強化される——普通の投資家は依然として証券会社を通じて市場にアクセスする。だが、直接保有の普及はこの優位性を侵食する。投資家がSEC登録株式を自己管理し、規制されたオンチェーン取引所で取引できるなら、小売証券会社の存在意義は何か?答えは、サービスにある。規制相談、税務計画、ポートフォリオ管理など、スマートコントラクトでは代替できない高付加価値機能だ。
第三に、移転代理人の役割は歴史的に低調だったが、今後は大きく変わる可能性がある。
従来の体系では、移転代理人は股東名簿の管理を担う控えめな裏方だった。しかし、直接保有モデルでは、移転代理人は発行者と投資家の間の重要な接点となる。SuperstateやSecuritizeはSEC登録の移転代理人ライセンスを持ち、株主名簿の更新権を握ることが、直接保有体系の入口を掌握することになる。
第四に、資産運用者は、連携性(可組合性)がもたらす競争圧力に注意を払う必要がある。
もしトークン化株式がオンチェーンの貸付プロトコルの担保として使われるなら、従来の保証金融資のビジネスは打撃を受ける。投資家がAMM上で24/7取引し、即時決済できるなら、T+1の決済サイクル内の資金占有のアービトラージも消える。これらの変化は一夜にして起こるわけではないが、資産運用機関は事前に自らのビジネスモデルが決済効率にどれだけ依存しているかを評価すべきだ。
六、二つの曲線の交点
金融インフラの変革は一夜にして成し遂げられるものではない。1970年代の紙の危機は間接保有体系を生み出したが、DTCの設立からCede & Co.が米国株の83%を保有するまでには20年以上の歳月を要した。SWIFTも1973年に設立され、国境を越える決済は今なお再構築の途上にある。
両者の道は短期的にはそれぞれの領域で成長を続けるだろう。
DTCCの機関向けサービスは、担保管理、証券貸借、ETFの申請・償還といった、決済効率に最も敏感なホールセール市場に先行浸透する。
一方、直接保有モデルは、エッジから始まる。暗号資産のネイティブユーザー、小規模発行者、特定の司法管轄区の規制サンドボックス。
長期的には、両者の道は交わる可能性がある。トークン化された権利の流通規模が十分に大きくなり、直接保有の規制枠組みが成熟すれば、投資家は初めて真の選択肢を得る——DTCCシステム内でのネット決済の効率を享受するか、オンチェーンで自己管理し資産の直接コントロールを取り戻すか。
この選択権の存在こそが、変革そのものである。
1973年以来、投資家はこの選択肢を実際に持ったことは一度もない。株式を買い入れる瞬間から、間接保有システムに自動的に組み込まれ、Cede & Co.が法定所有者となり、投資家は権利の最終受益者となる。これは選択の結果ではなく、唯一の道だった。
Cede & Co.は依然として米国公開株の大部分を登録している。この比率は動き出すかもしれないし、長く維持されるかもしれない。しかし、50年後、もう一つの道がついに整った。
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詳細な解釈:DTCCの米国株式トークン化の背後にある二つの道筋
執筆者:菠菜菠菜
2025年12月11日、米国証券保管信託会社(DTCC)はSECから「ノーアクションレター」(No-Action Letter)を取得し、ブロックチェーン上で保管している証券資産のトークン化を認められた。
この発表により、業界は歓喜し、注目の的となった。99兆ドル規模の保管資産がついにオンチェーン化され、米国株のトークン化の扉が開かれた。
しかし、この文書を詳細に読むと、重要なポイントが見えてくる。DTCCがトークン化しているのは「証券権利」(security entitlements)であり、株式そのものではない。
この違いは法律用語の細かい表現のように聞こえるかもしれないが、実は証券トークン化の二つの異なる道筋と、それに関わる二つの勢力の間で進行している博弈を示している。
一、米国株の真の所有者は誰か?
この博弈を理解するには、まず逆説的な事実を把握する必要がある。米国の公開市場において、投資家は実際に株式を「所有」したことは一度もない。
1973年以前は、株式取引は実物証書の流通に依存していた。取引完了後、売買双方は実物の株券に署名・裏書を行い、それを郵送して名義書換を行うという手順だった。この流れは取引量が少ない時代には問題なく機能していた。
しかし、1960年代末には、米国株の平均日次取引量が300万株から1,000万株を超えるまで急増し、システムは崩壊の危機に瀕した。証券会社のバックオフィスには何百万もの株券証書が滞留し、紛失・盗難・偽造が相次いだ。ウォール街はこの時期を「ペーパークライシス」(紙の危機)と呼んだ。
この危機に対処するために誕生したのがDTC(Depository Trust Company)である。彼らの基本的なアイデアはシンプルだ。すべての株券を一箇所に集中保管し、取引時には実物を動かさず、帳簿上のデジタル記録だけで済ませるというものだ。
これを実現するために、DTCはCede & Co.という名の名義預かり機関を設立し、ほぼすべての上場企業の株式をCede & Co.名義に一元登録した。
1998年の公式公開データによると、Cede & Co.は米国の発行済み公開株の83%の法定所有権を保有している。
これは何を意味するのか?あなたが証券会社の口座で「アップル株100株を保有」と見ているとき、その株主名簿にはCede & Co.の名が記されている。
あなたが持っているのは、「証券権利」と呼ばれる契約上の請求権だ。あなたは証券会社に対してこの100株から生じる経済的利益を主張できる権利を持ち、証券会社は清算業者に対して請求し、清算業者はDTCCに対して請求できる。これは階層的な権利の連鎖であり、直接的な所有権ではない。
この「間接保有システム」(indirect holding system)は50年以上にわたり運用されてきた。紙の危機を解消し、毎日数兆ドルの取引清算を支えてきたが、その代償として投資家と保有証券の間に永遠に中間の仲介層が存在している。
二、DTCCの選択:インフラのアップグレードと構造の維持
この背景を理解すれば、今回のトークン化の範囲は明確になる。
SECの免責レターとDTCCの公開声明によると、彼らのトークン化サービスの対象は、「DTCにおいて保有されている証券権利を持つ参加者(Participants)」である。参加者とは、直接DTCCと連携する清算証券会社や銀行を指し、現時点で米国には数百の機関だけがこの資格を持つ。
一般投資家が直接DTCCのトークン化サービスを利用することはできない。
トークン化された「証券権利トークン」は、DTCCが承認したブロックチェーン上で流通するが、これらのトークンが表すのはあくまで底層資産に対する契約上の請求権であり、直接的な所有権ではない。底層の株式は依然としてCede & Co.名義のままである。
これはインフラのアップグレードであり、構造の全面的な再構築ではない。目的は既存システムの効率性を向上させることであり、置き換えることではない。DTCCは申請書類の中で、いくつかの潜在的なメリットを明示している。
第一に、担保資産の流動性向上:従来の仕組みでは、証券の移動には決済サイクルを待つ必要があり、資金はロックされる。トークン化により、参加者間でほぼリアルタイムの権利移転が可能となり、凍結された資本を解放できる。
第二に、照合の簡素化:現行システムでは、DTCC、清算証券会社、小売証券会社がそれぞれ独立した帳簿を管理し、毎日大量の照合作業を行っている。ブロックチェーン上の記録は、これらを共有する「唯一の事実源」となり得る。
第三に、将来のイノベーションの土台:DTCCは、将来的に権利トークンに決済価値を持たせたり、ステーブルコインを用いた配当支払いを可能にしたりする可能性に言及している。ただし、これらには追加の規制許可が必要となる。
重要なのは、DTCCがこれらのトークンがDeFiエコシステムに入ることはなく、既存の参加者を迂回しないこと、発行者の株主名簿も変更しないと明言している点だ。
言い換えれば、誰も覆すつもりはなく、この選択には合理性がある。
多国間ネット・決済(multilateral netting)は、現行の証券清算システムの核心的な優位性だ。毎日数兆ドルの取引総額は、NSCCのネット差引きにより、最終的には数百億ドルの移動だけで決済が完了する。この効率性は集中型のアーキテクチャ下でのみ実現できる。
DTCCは、システム重要な金融インフラとして、安定性の維持を最優先とし、イノベーションを追求しない。
三、直接保有派:トークンから株式そのものへ
DTCCの慎重なアップグレードと並行して、もう一つの道もすでに芽吹いている。
2025年9月3日、Galaxy DigitalはSEC登録の株式を主流のパブリックブロックチェーン上でトークン化した最初のナスダック上場企業として発表した。Superstateと提携し、GalaxyのAクラス普通株は、Solanaブロックチェーン上でトークンとして保有・移転できる。
重要な違いは、これらのトークンが実際の株式を表している点だ。株式の請求権ではなく、所有権そのものである。SuperstateはSEC登録の移転代理人(transfer agent)として、トークンの移転時に発行者の株主名簿をリアルタイムで更新する。
トークン保有者の名前は、直接Galaxyの株主名簿に記載される——Cede & Co.はこのチェーンには存在しない。
これが真の意味での「直接保有」だ。投資家は契約上の請求権ではなく、財産権を得る。
2025年12月、Securitizeは2026年第1四半期に「完全オンチェーンのコンプライアンス取引」を実現するトークン化株式サービスを開始すると発表した。市場に多く見られる派生商品やSPVを用いた合成トークン化株式とは異なり、Securitizeは「本物の、規制された株式:オンチェーンで発行され、発行者の株主名簿に直接記録される」と強調している。
Securitizeのモデルはさらに一歩進んでいる。オンチェーン保有だけでなく、オンチェーン取引もサポートする。
米国株の取引時間中は、全国最良価格(NBBO)に連動し、休市中は自動マーケットメイカー(AMM)がオンチェーンの需給動向に基づき価格を決定する。これにより、理論上は24時間365日の取引が可能となる。
この道は、ブロックチェーンを証券インフラのネイティブ層とみなす別のビジョンを示している。既存システムの付加層ではなく、基盤そのものとして。
四、二つの道、二つの未来を示す
これは技術的な競争ではなく、制度的な二つの論理の対決だ。
DTCCの道は漸進的な改良を志向している。現行システムの合理性——多国間ネット・決済の効率性、中央対抗リスクの緩和、規制の成熟——を認めつつ、ブロックチェーン技術を用いてより高速・透明な運用を目指す。
中間業者の役割は消えず、ただ記帳方法が変わるだけだ。
一方、直接保有の道は構造的な変革を志向している。間接保有システムの必要性そのものを疑問視し、ブロックチェーンが不変の所有権記録を提供できるなら、なぜ層状の仲介を維持する必要があるのか?投資家が自ら資産を管理できるなら、なぜ所有権をCede & Co.に譲渡するのか?
両者にはそれぞれの選択肢と妥協点がある。
(翻訳:Chuk Okpalugo)
直接保有は、自己管理、ピアツーピアの送金、DeFiとの連携といった自主性をもたらす一方、流動性の分散やネット差引きの効率喪失といった代償も伴う。すべての取引をオンチェーンで全額決済し、中央清算機関の差引きがない場合、資本の占有率は大きく上昇する。
また、直接保有は投資家自身に運用リスクを負わせることになる。秘密鍵の紛失やウォレットの盗難など、従来は中介が保証していたリスクが、今や個人の責任となる。
間接保有はシステムの効率性を維持する。集中清算の規模の経済、成熟した規制・コンプライアンス体制、機関投資家に馴染みの運用モデルだ。ただし、その代償は、投資家が権利行使を常に中介を通じて行う必要があることだ。株主提案や投票、直接の発行者とのコミュニケーションは、理論上は株主の権利だが、実務上は多層の中介を経由しなければならない。
注目すべきは、SECが両方の道に対しても開かれた姿勢を示している点だ。
12月11日にDTCCの免責レターに関して出された声明の中で、Hester Peirce委員は明言した。「DTCの証券権利のトークン化モデルは、この旅路の中で有望な一歩だが、他の市場参加者は異なる実験的な道を模索している……すでに一部の発行者は自らの証券をトークン化し始めており、投資家が仲介を介さずに直接証券を保有・取引しやすくなる可能性がある。」
規制当局のメッセージは明快だ。これは「どちらか一方を選ぶ」ものではなく、市場により適したモデルを決めさせるためのものだ。
五、金融仲介の防衛戦略
この道の対立に直面したとき、既存の金融仲介はどう対応すべきか?
第一に、清算証券会社と保管機関にとっての課題は次の通りだ。
DTCCモデルの下で、あなたは不可欠か、それとも代替可能か?もし権利のトークン化が参加者間で直接移転できるなら、従来の托管料、移転料、照合作業の存在意義は何か?DTCCのトークン化サービスをいち早く採用した機関は差別化できるが、長期的にはこのサービス自体が標準化・商品化される可能性もある。
第二に、小売証券会社の課題はより複雑だ。
DTCCモデルでは、彼らの役割は強化される——普通の投資家は依然として証券会社を通じて市場にアクセスする。だが、直接保有の普及はこの優位性を侵食する。投資家がSEC登録株式を自己管理し、規制されたオンチェーン取引所で取引できるなら、小売証券会社の存在意義は何か?答えは、サービスにある。規制相談、税務計画、ポートフォリオ管理など、スマートコントラクトでは代替できない高付加価値機能だ。
第三に、移転代理人の役割は歴史的に低調だったが、今後は大きく変わる可能性がある。
従来の体系では、移転代理人は股東名簿の管理を担う控えめな裏方だった。しかし、直接保有モデルでは、移転代理人は発行者と投資家の間の重要な接点となる。SuperstateやSecuritizeはSEC登録の移転代理人ライセンスを持ち、株主名簿の更新権を握ることが、直接保有体系の入口を掌握することになる。
第四に、資産運用者は、連携性(可組合性)がもたらす競争圧力に注意を払う必要がある。
もしトークン化株式がオンチェーンの貸付プロトコルの担保として使われるなら、従来の保証金融資のビジネスは打撃を受ける。投資家がAMM上で24/7取引し、即時決済できるなら、T+1の決済サイクル内の資金占有のアービトラージも消える。これらの変化は一夜にして起こるわけではないが、資産運用機関は事前に自らのビジネスモデルが決済効率にどれだけ依存しているかを評価すべきだ。
六、二つの曲線の交点
金融インフラの変革は一夜にして成し遂げられるものではない。1970年代の紙の危機は間接保有体系を生み出したが、DTCの設立からCede & Co.が米国株の83%を保有するまでには20年以上の歳月を要した。SWIFTも1973年に設立され、国境を越える決済は今なお再構築の途上にある。
両者の道は短期的にはそれぞれの領域で成長を続けるだろう。
DTCCの機関向けサービスは、担保管理、証券貸借、ETFの申請・償還といった、決済効率に最も敏感なホールセール市場に先行浸透する。
一方、直接保有モデルは、エッジから始まる。暗号資産のネイティブユーザー、小規模発行者、特定の司法管轄区の規制サンドボックス。
長期的には、両者の道は交わる可能性がある。トークン化された権利の流通規模が十分に大きくなり、直接保有の規制枠組みが成熟すれば、投資家は初めて真の選択肢を得る——DTCCシステム内でのネット決済の効率を享受するか、オンチェーンで自己管理し資産の直接コントロールを取り戻すか。
この選択権の存在こそが、変革そのものである。
1973年以来、投資家はこの選択肢を実際に持ったことは一度もない。株式を買い入れる瞬間から、間接保有システムに自動的に組み込まれ、Cede & Co.が法定所有者となり、投資家は権利の最終受益者となる。これは選択の結果ではなく、唯一の道だった。
Cede & Co.は依然として米国公開株の大部分を登録している。この比率は動き出すかもしれないし、長く維持されるかもしれない。しかし、50年後、もう一つの道がついに整った。