39兆ドルの国債が圧し掛かる中、FRBは利上げをしてもいいのか?



「FRBは利上げしない。米国国債は39兆ドルにも達しており、いざ利上げすれば米国の財政が破裂してしまうからだ」という声があります。

では、この主張には根拠があるのでしょうか。筆者の見方では、現実的な必要性であれ制度設計であれ、この考え方は成り立ちません。

まずは現実的な必要性から。簡単に計算すると、FRBが利上げしなければ浮いた利息コストは、せいぜい米国政府が1週間ほど使える程度にしかならないことが分かります。FRBは、この「小さな金額」のために、より大きな問題——インフレ——が悪化するのを放置する必要はありません。

この計算はどうやっているのか?分かりやすくするため、FRBが2026年9月に一度に100BP(つまり1%)利上げし、その後2027年12月まで金利を据え置くと仮定します。

なお、市場が2026年12月に100BP利上げする確率はわずか1.7%なので、ここでの仮定は非常に強気(タカ派)です。

では、このようなタカ派の利上げによって、米国国債の利息支出はいくら増えるのでしょうか。これは、国債の「残高」と「増分」の両方を見なければなりません。

まずは大部分を占める残高から。米国国債の残高39兆ドルのうち、直接的に財政負担を増やすのは31兆ドルで、残り8兆ドルは政府内部の負債(短期的には帳簿上の話で、実際の資金支出は伴わない)です。

この残高31兆ドルのうち、大部分の債券は固定利率で、想定している利上げ期間内に満期を迎えません。逆に、FRBの利上げサイクルの影響を直接受けるのは以下のものです。

7000億ドルの変動金利債(FRN)。四半期ごとに利率が調整されます。

6.7兆ドルの短期米国債(Bills)。1年以内に満期を迎え、新規発行でロール(借り換え)が必要です。

4兆ドルの満期を迎える中長期国債。

つまり、利上げによって利息支出が増えるのは合計11.4兆ドルだけで、それ以外は利上げしても1セントも多く支払うことはありません。

では、ここで仮定します。この11.4兆ドルの残高債が、FRBが100BP利上げした翌日に満期を迎え、利上げ幅を反映した新しい債券に置き換わると。

すると、増える利息支出は次の通りです。
影響を受ける残高国債(11.4兆ドル)×FRBの利上げ幅(1%)×利上げサイクル(1.25年、つまり2026年の第4四半期+2027年通年)=1425億ドル。

次に、ネットで新規に増える債券(「借りて返す(借換)」以外の増分)です。過去のデータから見積もると、2026年9月〜2027年12月のネットの新規国債発行は約2.8兆ドルと見込まれます。

同様に大まかに計算し、ネットの新規債券がFRBの利上げと同時に発行されると仮定すると、増える利息支出は
ネット新規債券(2.8兆ドル)×FRBの利上げ幅(1%)×利上げサイクル(1.25年)=350億ドル。

つまり、利上げサイクル中に追加で増える利息支出は、残高債+新規債で合計1775億ドルです。

しかし、上記の計算はかなり雑です。細かく掘り下げれば、FRBが100BP利上げしたことで実際に増える利息支出は、1800億ドルをはるかに下回るはずです。理由は次のとおりです。

FRBの利上げは通常、一度にではなく段階的に行われます。

利上げはインフレ期待を下げます。中長期債券の利回りはインフレ要因を織り込む必要があるため、中長期債券の利回りは利上げ幅に1対1では連動して上がりません。

米国国債の発行も段階的に行われます。そのため、「借り換え」分の債券であれ「新規」分の債券であれ、1.25年分の利息を満額、まるごと支出するわけではありません。

これらを考慮すると、利上げにより増える利息支出の見通しは、1100億ドル程度にとどまるということになります。

ただし、1800億ドルであっても1100億ドルであっても、米国政府の平均的な1日当たりの支出が約200億ドルであることを考えれば、要するに「5.5日分で使い切るか、9日分で使い切るか」の違いにすぎず、「天が崩れる」ほどの大事ではありません。

では、このわずかな利息節約の代わりに支払うコストは何か?インフレが制御不能になれば、米国にもっと大きな損失をもたらします。そうした「にんじんを拾って西瓜を失う」ような事態を、FRBがやるでしょうか?

次に制度設計について。制度上、FRBには財政問題を解決する義務はありません。

FRB自身の「憲法」——『FRB法』——第2条第1項で、FRBの法定目標は明確に3つだけに限られています。

雇用最大化(maximum employment)

物価の安定(stable prices)

適度な長期金利(moderate long-term interest rates)。

債務管理は含まれていません。

さらに、財務省とFRBの間にある「1951年の協定」(The Treasury-Fed Accord)によって「誰の子は誰が抱える」という原則が確立されています。つまり、債務管理は財務省、金融政策はFRBです。

そのため制度上、国債の利息支出の多寡は、FRBが考えるべき問題ではありません。この問題の解決にはホワイトハウスと、上下両院・両党の共同の努力が必要であり、FRBの手の届く範囲をはるかに超えています。

結論として、筆者の見立てでは、FRBは39兆ドルの国債があるからといって利上げをしない、ということはありません。市場データもそれを示しています。FedWatchによれば、9月の利上げ確率はすでに70%を超えています。

最後に:FRBについては、もっともらしいけれど筋が通らない説明が少なからず流布しています。そうした話は聞いていると理屈に見えても、よく考えると裏が取れません。皆さんはほかに、「たしかにそう聞こえるけど、どこかおかしい気がする」FRBの見解に出会ったことはありますか?コメント欄にお寄せください。コメントで最も多かった論点について、筆者が改めて別記事で整理・検証します。
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